開発教育とは何か

開発教育とは何か

開発教育は、南北問題が世界的な課題となりつつあった1960年代後半に、欧米諸国の国際協力に関わる民間援助団体(NGO)の間から提唱され実践された比較的新しい教育運動である。1970年代にはユネスコやユニセフといった国連機関でも採用されて先進工業国の間に広まった。日本では1980年前後に概念としてまとまりを見せ、その後開発教育協議会のメンバーを中心にして、社会教育団体、学校あるいは国際協力NGOによって実践が進められてきた。特に1990年代に入ってからは、日本のODAの額が世界一になり、地球規模の環境問題が注目を浴び、あるいは「国際貢献」が話題になるなかで、開発教育の必要性が広く一般に認められるところとなった。

開発教育は、公正と共生を基本理念とする地球社会の実現をめざし、人類共通な課題である地球規模の開発問題をめぐる諸問題を理解し、その解決に向けて参加する態度と能力を養うための教育学習活動というように定義することができる。

1.多様性の尊重-開発を考えるうえで、人間の尊厳性の尊重を前提として、世界の「文化」の多様性を理解すること。
2. 開発問題の現状と原因-地球社会の各地に見られる「貧困」や「南北格差」の現状を知り、その原因を理解する こと。
3. 地球的諸課題の関連性-開発をめぐる問題と環境破壊などの地球的諸問題との密接な関連を理解すること。
4. 世界と私たちのつながり-世界のつながりの構造(相互依存)を理解し、開発をめぐる問題と私たち自身との深い関わりに気づくこと。
5. 私たちのとりくみ-「開発」をめぐる問題を克服するための努力や試みを知り、「参加」できる能力と態度を養うこと。


開発教育と国際理解教育

今回の文部省の中教審答申は国際理解教育を重点的にとりあげ、その内容として「異文化理解」「自国理解」そして「アジア・オセアニア理解」の3つを強調している。アジア・オセアニアという地域が唐突に出てくるが、これはやはりアジア・オセアニア地域に代表される「開発途上国」理解であり「開発問題」理解でなければならないだろう。その意味で国際理解教育は異文化理解や外国語教育のみではなく、人口、食料、環境、南北格差、国際的人権、民族対立といった課題の問題解決学習として捉えかえされる必要がある。言い換えれば、開発教育は平和教育、人権教育、環境教育と並んで地球的課題を扱う国際理解教育の一部に位置づけられるべきであり、またそのようにしなければ今後の国際理解教育の展望を拓くことはできないであろう。
この認識に立つ指導的なグループが私達のグループ全国国際教育研究協議会である。


具体的な活動方針

Ⅰ 多様な人材に支えられ活性化された組織の必要性

開発教育を進めて行くためには、学校の中で教師が中心となり全国共通のテーマで研究実践していく組織の存在が必要である。東京都高等学校国際教育研究協議会が事務局を兼ねる、全国組織である全国際教は2002年では全国47都道府県全てに支部が存在し、学校数にして2553校、これは全国の高校のほぼ半数の加盟である。また全国を8箇所のブロックにわけブロックごとのきめの細かい連携もとられている。毎年8月の全国大会が1年間の全国の研究の成果を共有する機会であるが、同時に同じ会場で生徒のために、国際理解や国際協力のための英語弁論大会が開かれる。それを目指して各県大会及びブロック大会が開かれていて。この裾野での生徒の関わりは大きい。JICAエッセイコンテストへの参加生徒も各県の加盟校からの応募が組織的に行われて来ている。組織が主導での継続性と波及性は大きい。組織の人材の問題においても、最近、各自治体での派遣条例が整って来たため、現職教師の青年海外協力隊への参加が増えそれに応じて教育現場に復帰したOB、OGの数も増えて来た。この人達が大きな原動力になっているのも見逃せない。開発途上国で援助してきた事は大きな功績だが、教師達自身がその厳しい生活の中で身につけた多様な文化に対応する能力と一人でも任務を遂行する強靱な精神力は学校現場に戻ったあとも大きな影響力を与えている現実があるのである。

また、人材の多様性も役だっている。開発教育は教科を超えた内容である、それだけに、普通の教科の研究会とは違い単一教科の先生ばかりでないため、意見や実践がバラエティーに富んでおり常に活性化されていると言う利点がある。教師にとっても関心のなかった他教科の実践に触れる機会が多く刺激が大きいのである。これは高校では2003年から導入される、総合的な学習の時間などに国際理解や開発教育を進めて行くときに、教科横断的な人材を有する組織としてすぐにその方向での実践を生かす事が出来ると予想されるのである。

Ⅱ ニーズをつかんだ研修会の開催の継続

例えば東京の研究協議会では毎年、3回の教師研修会と1回の生徒研修会をレギュラーで行っているがその研究会への参加希望は年々高まっている。教師研修会ではコンスタントに60名、生徒研修会では100名規模の応募が集まる。これはまずニーズをつかむ研修会を企画する事である。開発教育の情報は意外と一般では手に入りずらい世界である。それだけにニーズは有ると考えてよい。しかし、その研修会の存在をいかに周知するか、周知しても忙しい先生方が半日を割いて参加したくなる内容か否か、それがクリアー出来れば時代背景は追い風である。内容に関して特に注意を払っているのは第1に行動的な理論、実践の紹介に重点をおいていることである。教育現場ですぐに実践出来る内容を先生方は求めていると考えなくてはならない。世界の政治経済はますます流動的に変化してきている。今までの固定的な理論では対応出来ないのである。
一方、生徒研修会は教師研修会以上の人気である。これは、社会のなかに著しく外国人が増えてきてはいるが、シャイな日本人は自分から交流する機会を作ることが出来ずにいて、自然に交流出来る場の設定を待ち望んでいると考えていいであろう。しかし、ひとたび参加すると次第に積極的になり最後には会が終わっても新しい友人と交流を続けなかなか帰ろうとしない程である。そのため生徒研修会の企画実行は欠かせない内容でもある。

Ⅲ インターネット等の情報メディアの活用

情報メディアの活用は不可欠である。研究会で研究誌は数多く出るがその研究誌がどれだけ学校だけでなく社会にも浸透しているだろうか。ともかく1年分の研究をまとめて冊子を作る事だけ考えているとしたら、メディアとしての波及性はない、単なる自己満足に終始している事になる。学校の閉鎖性の壁を破り、学校現場で研究し実践している事を広く周知する努力をしなくてはならない。そのためには研究誌だけの発表ではだめである。
方向はあらゆるメディアを使う事である。研究誌では一部の先生の目にしか触れないので開発教育関連の情報誌に載せてもらう事も重要だ、しかしそれでも読者は限られている最も重要なのは一般に書店で販売される書籍でも紹介しなくてはならない。
しかし、そこまで出来てもまだ不足である。情報の即時性にかけるからである。研究誌では情報が発生してから最大で1年かからないと公開されない、月刊の情報誌にしても1ヶ月以上のブランクがでる。これでは困るのである。冷戦終了後世界の情勢は流動的になった今日まで有った国が明日には分割されると言うことが起こり得るのである。タイムリーな情報を流していくことも重要なのである。
そのためインターネットの利用は不可欠であるインターネットのもつ即時性はまさにその日にその日の情報を流せるのである。さらに誰でもアクセス出来るのである。これは学校の閉鎖性を変えていく力としても大きな効果が期待できる。これをみた人たちからの反響もネットの特性としてすぐに知ることが出来る。これはインタラクティブな交流が確保されることでも有るのだ。インターネットの利用はいままで連携のなかった小学校、中学校、大学やNGOとの研究の共有、連携をもたらすのである。開発教育の飛躍的なネットワーク化がインターネットを通じて出来る可能性が秘められているのである。

勿論情報メディアは数多く存在する、例えば書籍、新聞、ラジオ、テレビが日常的であろう、これらのメディアからはひっきりなしに世界の情報が流れてくる。確かに世界の知識を広げるには使える情報も多い、しかし問題は双方向ではない点である。情報ソースをコントロールされれば恣意的な情報も真実のように流される事になるのである。

またそれだけでなく、情報を受け続けるだけの状態では自分のアイデンティテイーを育てることはない、自分の発想を発信する事が、それへの応答を誘い、始めて自分の意見発想が批判及び評価を受け自己認識につながるのである。発信なしには、自分の考え方をチエックするのは難しい。
急速に広まってきたインターネットは、まさに双方向のメディアと位置づけられる、新世代の情報メディアである。このメディアを使い教室から世界をのぞき、世界に発信することにより、世界と教室をつなげ世界各地で今起こっていることを教室で考えさせ、発信させることによりアイデンティテイーを持った生徒の育成をはかる助けになるネットワーク基盤をねらいとした。

Ⅳ 開発教育を海外修学旅行のテーマの一つとして研究していく必要性

始めて高校生が実態験として海外の異文化に触れることの出来る海外修学旅行は開発教育にとっても是非利用したい学校行事である。海外修学旅行はまだ全ての都道府県で解禁されたわけではないが、公立学校においても47都道府県中、数県を残すまでに解禁されている。勿論私立ではこの限りではなく全国的な動向となっている。海外修学旅行は、文部省の統計では公立の例をとってみると平成12年度で1位韓国、151校、2位中国、139校、3位シンガポール、81校と全てアジアが上位をしめている。私立では1位米国、2位オーストラリア、3位韓国となるが選択理由は経費の問題であろう。やはり公共の学校で行う修学旅行に関して誰でも参加できる料金設定が出来るアジアが選ばれている事がわかる。中央教育審議会中間答申でも特にアジアに目を向ける必要が記述された事からも、アジア近隣への修学旅行は今後も増大するだろう。日本の援助と関連の深いアジアの開発途上国への修学旅行は開発教育の教材としても重要である。

現場教師が海外修学旅行に期待している教育上の目的や効果をみると国際的視野の拡大、語学力向上、生きた英語の使用、国際理解、国際交流、日本の再認識、国際感覚、日本人としての自覚等が出てくるが、21世紀に地球市民として成長していく青少年に日本の国際協力、ODAの現場を学んでもらう事は世界の人たちが手をとりあい助け合って生きていく社会を作り出すためにも重要な教育課題であろう。その意味で、修学旅行の目的に開発教育を組み込んで行くための教材、テーマを研究、先行的に提示していく必要があるだろう。

Ⅴ 開発教育を進める教師たちへの情報提供と支援

このように、全国国際教育研究協議会は、全国組織、他機関組織との連携、多様な人材、継続的先行的な研修会の企画実行、あらゆるメディアの活用、学校行事の活用を行っている。この中で一番重要なのは言うまでもなく多様な人材である。人材なしにこのような組織の運用は続けられない、しかし学校現場の忙しさは想像以上である。その忙しさの中で中心となって動く各県の事務局メンバーはまさに自分の時間を犠牲にしたボランティアである。勿論自分たちの教育への信念からの活動ではあるが、少ない人材が消耗していくことのないように、私達は学校に居ながらにして多様な情報を供給できるネットワークを目指しているのである。