図書

総合的な学習の時間を利用しての開発教育の実践のために

東京都国際教育研究協議会は、「総合的な学習」の時間に開発教育や国際理解教育を教えるために、相互理解、異文化理解、多様性、意思伝達、国際協力、自然環境等の観点から教授用展開例を満載した書籍 総合的な学習にも使える「国際理解教育(地球学習)」を出版しています。

インターネットの活用なども詳細に説明してあります。この展開例を参考にグローバル教育・開発教育を進めて頂きたいと思います。

A5判 240ページ 1800円

出版社 清水書院 ISBN4-389-22543-X

〒162-0813 東京都新宿区東五軒町1-11 TEL03-3260-5261 FAX 03-3260-5270

 

学校現場での開発教育の努力

日本で生活する外国人が、人数の上でも国の数の上でも増加していく中で、地域においてだけでなく、学校の中でもすぐ近くに外国人が存在し、誰でもちょっとした勇気が有れば異文化交流が出来る状況になってきたのは大きな変化である。いままで言葉として言われてきた学校の国際化が一気に現実化してきたといえるだろう。学校内に外国人がいることは様々な効果をもたらす、依然として外人に対して偏見をもつ生徒も出てくる一方、相手の習慣や考え方を知ろうとする好意的な生徒も出てくる。そこでの葛藤が起こるのは自然である。単一民族で長い歴史をもつ日本人にとってはじめて価値観の多様化を認識出来る、貴重な体験でもある。しかし、やはり日本人の中では圧倒的少数である外国人の生徒は極めて心細い生活を送っていると認識しなければならない。彼らのメンタルなケアーに関しても教師は理解しフォローするように努力しなくてはならないだろう。それだけに、教師自身にとっても異文化理解のための研修努力は欠かせないものとなってきている。教科指導の他、生徒指導に追われる忙しい学校の中でさらに国際理解教育のための時間を作ることは並大抵の事ではないが、率先して異文化理解に関して研修に参加し、情報を集め自分の教科の授業の中で実践している教師が増えてきたのもまた現実である。

このような現状の中で行われてきた実践をあげてみよう。英語を中心に制度として各地の教育委員会が早くから取り入れて来たのは語学補助教員の導入である。この制度によるネイテブな英語学習と外国人補助教員との国際交流は普通になってきた。外国人と授業の中での異文化交流ができ、リスニングや発音に重点をおきコミュニケーション能力を高める試みは評価できる。また、自治体に依っては姉妹都市、姉妹校との交換留学制度を設け積極的に生徒を派遣すると同時に、相手国の生徒が日本の学校に来ることにより同世代の高校生同士の交流が身近な異文化理解を進めている。同世代の交流は相手との考え方の違いから生徒に自分自身のアイデンティティーを認識させる大きな効果が期待出来る。さらに全国の自治体の中で国際化が進むに連れ47都道府県のうち30県までがすでに海外修学旅行、海外研修旅行を解禁にしている。文部省の平成8年度の高校生の国際交流状況調査に依ると公立233校、生徒数43,617人、私立455校、生徒87,052人、合計688校、生徒130,669人が参加しているのである。この調査は隔年のため10年度の結果がでるとさらに増加していることが予想される学校行事として海外に行く事が出来るようになって来たのは大きな変化である。生徒たちにとって、初めて接する異文化交流体験が学校教育の中で行われることの意義は大きい、教室での異文化理解の授業はやはり実際に日本以外の国に行くことのインパクトにはかなわない、この実体験が学校行事として行われることは、教科外ではあるが教科に位置づけられたと同じ効果をもつであろう。海外修学旅行は今後も全ての自治体で拡大される方向は間違いないだろう。そこで、海外修学旅行のテーマの一つに、ODAプロジェクトの現場や、青年海外協力隊員の活動現場を訪問し体験する「国際協力」を位置づけて行くことが課題であろう。

一方で生徒会活動やクラブ活動などの生徒活動において学校において普通に行われてきたユニセフ等の募金活動、や物資援助活動は地味ではあるが地道に広がっている。募金や物資援助に関する情報はテレビなどのマスメディアで流されているため、教師が提案しなくても生徒達が自分たちで自主的に開発途上国の現状を知り、行動を起こすという自発的な開発教育が行われている。募金だけではなくさらにその目的を明確にした援助活動も育っている。例えば自然災害等の被災者や難民・避難民たちに必要な衣類を送ったり、貧困から抜け出すために職を身につけるための道具としてのミシン等を送ったりの物資援助活動などが行われてきた。その他にも青年赤十字活動やインターアクト活動等による地域社会奉仕活動や社会問題に取り組んだり発展途上国に対する開発協力や国際理解推進の活動に取り組む学校も多くなってきている。

また、学校行事でしばしば行われる講演会のテーマに国際理解や国際交流や国際ボランティア活動を選び講師を呼んでの講演会の形での教育も広がってきている。教科の授業の中では、これらの内容を、地球環境問題、エネルギー問題、人口問題、人権や平和の問題など地球的規模の問題ととらえ例えば社会科において人権や平和の問題に絡めて開発途上国の子どもや女性の立場を問題提起したり、理科では、地球環境の問題と開発の相互のバランスの問題を考えたり、家庭科においては世界の料理とその国の文化の関わりを実際に料理を作り考えてみたり、保健の授業で開発途上国の人口問題や母子の健康やエイズの問題などを考えるなどあらゆる教科において教師の工夫や努力により様々な取り組みが行われてきている。

教室の中で異文化体験ができる参加型学習も行われている。ゲームをしながら知識としてではなく仮想体験として異文化体験を行えるため効果的である。例えば様々な資源を持つ国家間の貿易における相互依存や資源の不均衡な配分によって起こる不公平を疑似体験する「貿易ゲーム」や自分が国家の政策担当者になったとして食料をとるか、識字率を上げるか、乳児死亡率を下げるか、軍事費をどうするか等を他国と交渉しながら国の運営を行っていく「エンディングハンガーゲーム」やなぜ貧困から抜け出せないのかを理解し、その解決法を考える「貧困の輪」や架空の複数の国の国民になったとしてグループ事に実際に交流をしてみて文化の多様化と国際交流の難しさを体験する異文化体験シミュレーションゲーム「バファバファ」等様々な実践が教科やホームルーム等で行われてきている。

このように高校の現場でどのように実践が行われているのか調べて見ると、様々な取り組みが見えてくる。開発教育と言う言葉がまだ学校現場では市民権を得ているとは言えない現状の中で、全国各地の教師達は情報の少ない中、各地の高等学校国際教育研究協議会等の開発教育研究会や学校外では政府系

ODA機関やNGOの行っている市民講座や講演会に参加し情報を集め研修を重ね、様々な取り組みを教科の授業の中で、生徒会活動やホームルーム活動、文化祭のイベントなど特別活動の中で、その他の国際交流に関する活動の中で、精一杯努力を重ねている現状が見えてくるのである。

この取り組みの実践を進めている教師の中には長期の海外経験のある教師が多いのであるが中でも国際ボランティアである。青年海外協力隊に参加した

OB、OGの教師たちの実践活動は大きな効果を表していることも留意したい、日本人が一人もいない心細い海外の辺境で現地の住民たちとの交流からつかんだ強い精神力と多様な文化を受け入れる許容力は、生徒たちに大きな波及力を持って浸透していく力を秘めているといっても過言ではない。

しかし、これらの取り組みも取り組みの多様さにおいては広がりを見せてはいるのだが、量的な広がりとして考えて見ると依然大きなうねりを作っているとはいえない状況である、まだまだ先進的な一部の教師たちの努力によっているといっても過言ではないのである。

今後の課題は個別に行われている研究実践の横のつながりを強化するネットワークの構築である。また、情報の不足を補うあらゆるメディアでの開発教育データーバンクが必要になってくるであろう。全国何処の学校でもそこにいながら自由にアクセス出来るインターネット上のネットワークやデーターバンクは今後望まれる方向性と考えられる。そして最も大事な事は、今後の開発教育を担っていく人材を育てるためにも、開発教育を担っていく教師が開発途上国をはじめ海外の現実により接することが出来る派遣制度と機会を増やす事がではないだろうか。