JICA東京市民参加イベント分科会(B)報告

開発教育ワークショップ「赤道の通る国で」

報告 常磐大学 上松信義

 

日 時 2005年1月29日(土)14:40〜16:20

場 所 JICA東京国際研修センター

担 当 ファシリテーター 星野雅義(青年海外協力隊員OB 東京都立大島高等学校)

             上松信義(常磐大学非常勤講師)

    補助者      高島みゆき(東京都立第一商業高等学校)

             竹山哲司(東京都立芝商業高等学校)

             柳由美子(東京都立三鷹高等学校)

 

【はじめに】

 JICA東京が主催する市民参加イベントにおいて、パネルディスカッションの後、5つの分科会をセットするに当たり、東京都国際教育研究協議会の協力を得られないかとの打診があった。2003年夏にエクアドルを訪問していたので、その時の様子を紹介することで良いのならと分科会を引き受けることにした。

 エクアドルを訪問した目的は、当時、青年海外協力隊員として現地に赴任していた星野雅義氏に会うためだった。星野氏は、エクアドルの首都キトからバスで3時間あまりかかるサントドミンゴの赤道技術大学で農業技術の指導をするために前年の2002年から業務についていた。

 私は、2004年4月より茨城県水戸市にある常磐(ときわ)大学で、教職の必修科目である「総合演習」の講座を担当している。この科目は、教員免許を取得するための必修科目で、1998年(平成10)、教員免許法が改正されて新設された。教育をめぐる多様で困難な課題に対応するのに、地球的視野に立って行動する資質能力を教員に身 につけさせるのが科目のねらいである。常磐大学では総合演習をA、B、Cの3講座に分け、Aは人間や人権に関する分野、Bは環境に関する分野、Cは異文化 理解に関する分野を扱うことにした。

私はCの異文化理解に関する分野を担当している。1回80分で15回の講座の内、試験を除く14回について、私がこれまでに訪れた海外の様子を、「世界の街並みと人々の暮らし」のサブタイトルで映像を通して紹介している。エクアドルについても講義で取り上げていたので、分科会を担当するに当たり、あまり迷わずに協力することにした。

【エクアドルという国】

 エクアドルは南米大陸の北西に位置する国で、首都キトの付近を赤道が通っている。エクアドル(Ecuador) という国名はスペイン語で「赤道」の意味である。国土面積は日本の約4分の3、人口は1300万人ほどである。国の中央部にアンデス山脈が通り、シエラと 呼んでいる。ブラジルと国境を接し、アマゾン川の源流域をオリエンテ、太平洋に面した沿岸地域をコスタといい、さらに本土から1000km離れた太平洋上 にガラパゴス諸島がある。

公用語はスペイン語で、民族構成は、先住民と白人の混血であるメスティソが55%、先住民が25%、白人10%、黒人10%となっている。石油を産出するが、主要な産業はバナナ、コーヒー、カカオなどの農業と水産業である。

【分科会の進行と概要】

 14:40〜16:00の時間帯に設定された分科会(B)は、次のように進行した。

 14:40〜15:10 映像(130枚のスライド)によるエクアドルと星野隊員の活動紹介。

  15:10〜15:25 星野隊員及びエクアドルに同行した高島教諭、柳教諭の補足説明。

  15:25〜15:40 質疑応答。

  15:45〜16:20 分科会を2つのグループに分けてワークショップ。

 星野隊員は東京の農業高校で食品製造や野菜園芸の指導経験があり、都立大島高校在職中に協力隊に応募し、エクア ドルに赴任した。勤務先の赤道技術大学で初めて受け入れた日本からの青年海外協力隊員であった。当初の目的は野菜栽培を指導することであったが、途中から 土壌試験や分析などの業務にも関わった。協力隊員の受け入れについて大学内部の意思統一が不十分で、星野隊員は赴任期間を通して苦労を重ねた。

 エクアドルにおいて日本の工業製品や電化製品は品質の良さから高い評価を受けていたが、日本人に対する認識は不 十分だった。日本人、韓国人、中国人の区別がつかずベトナムなども含めてアジア人という理解と、包括的に中国人としての理解であった。星野隊員のカウン ターパートを希望する大学職員が現れず、大学院の学生がパートナーとして星野隊員の活動を助けた。アジア人蔑視の雰囲気の中で星野隊員は苦労したが、技術 的には確かなものがあっため、大学でも実績は無視できなかった。

 エクアドルの首都キトは海抜2850mの高地にある。高島教諭、柳教諭 はエクアドル到着後、高山病で体調を崩した。滞在するうち回復し、後半はダーウインの進化論で知られるガラパゴス諸島を訪れた。私は中米のホンジュラスで 活動するシニアボランティアの知人を訪ねるためにガラパゴスに行かず、エクアドルを離れた。

 30名を越える分科会参加者の多くは大学生だった。全体的な質疑応答を した後、二つのグループに分けてワークショップを持った。全体の質疑応答で、なぜ、中国人が蔑視されるのかという質問があった。星野隊員から、エクアドル の歴史の中で中国からの移民が多く、入国当事、エクアドル国民が嫌がるような仕事に従事し、次第に経済力をたくわえていった経緯。経済的に力をつけた中国 人に対する複雑な思いが屈折した感情になること、また、ジャッキーチェンなどのカンフー映画が好まれ、中国人は奇声を発することへの好奇心なども重なるな どの答えがあった。

ワー クショップの進行について、本来なら参加者の中からリーダー、サブリーダーを選んで進めたかったが、残り時間が少ないために高島教諭、柳教諭がそれぞれの グループの進行役を努めた。竹山教諭は柳教諭のグループ、私は高島教諭のグループに参加し、星野隊員が2つのグループを行ったり来たりというかたちをとっ た。参加者全員が必ず発言することをねらいとしてワークショップを進行した。

ど ちらのグループも参加者全員から思い思いの感想が述べられた。青年海外協力隊員で赴任すれば、もっと好意的に受け入れられるとの先入観があったので、星野 隊員の苦労は意外だった。2年間滞在することの意義は何か、現地の子どもたちの様子をもっと知りたいなど、活発な意見交換や質疑応答をするうちに終了予定 時間を軽く越えてしまった。

星野隊員がこの日のために伊豆大島から上京してくれたため、分科会の内容を深めることができた。国際教育研究協議会の存在も評価されたことと思う。